猫に小判、抹茶に羊羹

役に立つことは多分ない。美味なるものには毒がある

結婚と自殺率

 良く言われるのが、「結婚している男性の方が未婚男性より自殺率が圧倒的に低い」というものだ。これをもって「配偶者がいる、家庭があるというのが支えになっている」という中間地点を経由して「恋愛・結婚する方が良い」という結論を導くというのがお決まりのコースになっている。

 ここで、厚生労働省の資料を見てみよう。

http://ikiru.ncnp.go.jp/pdf/1003301.pdf

 この資料で「有配偶」とは今現在婚姻関係にある人、未婚とはいままで結婚したことが無い人、離別は離婚した人、死別は配偶者が亡くなった方を指す。

 だいたい取り上げられやすいのは5ページ目の自殺率(件数ではなく、人口10万人あたりの人数である)グラフで、なるほど「有配偶」が一番低くて、「未婚」は「有配偶」の2倍以上高い値を示している。

更には「離別」と「死別」がずば抜けて高い。

 最初に掲げたような記事を書かれている方々は、これらのデータから、「配偶者がいることが良いことなのだ。精神的に落ち着けるなどの効果があるのだろう。結婚できなかったり、連れ合いが居なくなった男性はそういう支えがなくないため、自殺に至りやすいのだ」としているわけだ。

 

 このデータだけからなら、そういう結論を導きたくなるのもわかる。が、そこには大きな要素が抜けている。それをはっきり示したのが、次の6ページ目にある、「有職/無職」を絡めた結果だろう。

 一目瞭然である。いろいろなことが読み取れる。

1)自殺率に大きな影響を与えるのは「職の有無」だということであり、有職者の場合の自殺率はいずれもごく低い値にある。

2)そして、特に男性・無職・離別者の三つが重なった場合の高さがずば抜けて高くなっている。

 この二つから想像されるのが、リストラや会社の倒産、家庭の事情などによって無職となった結果離婚し、自殺に至るというものだ。結婚さえしなければ、同じ「無職者」でも「未婚者」のカテゴリに入っていて、自殺を免れたかもしれないというのは深読みしすぎか。

 また、降格人事や閑職への異動、片道切符転勤・出向など、退職に追い込むためのステップに巻き込まれた結果として離別に至った場合には「有職」扱いになるので「有職・離別」カテゴリに分類されることになる。

 とすれば、「有職・有配偶者」の自殺率の低さというのは自殺リスクの高い方々をスクリーニングし、除外した結果として低くなっているだけではないだろうかと予想できるのだ。

 

 更にこれに追い討ちをかけるように、家庭が支えに・・という主張に疑問を投げかけてしまうのが

3)35歳から54歳くらいの働き盛り世代の無職男性についてみると、配偶者ありの場合の自殺率が、未婚者をやや上回っている。

 

 ということだ。一番の働き盛りな年齢で、日ごろのストレスも多いであろう時に大きな事態に直面したとき、家族が支えになっていない。それどころかプレッシャーにさえなっているような様子が目に浮かぶ。会社を首になったことを家族に言えず、毎日スーツ姿で”公園出勤”する姿だろうか。いずれ家庭内不和となって、「離別者」カテゴリに入っていくのだろうか。

 

 では、女性の場合はどうだろう。男性の場合と異なり、無職の場合に「有配偶」「未婚」「死別」「離別」がきれいに並び、特に「有配偶」が極めて低くなっているのがよくわかる。

 有配偶者の女性の場合、仕事で何かあって無職となってもほとんど関係ないとみるべきなのか、もともと専業主婦がかなり多いので比率として現れないのかはわからないけれど、少なくとも結婚している状態というのが大きな影響を与えていることは想像に難くない。

 

 結婚のメリットとして、「精神的な(多分、金銭的にも)安定が得られる」とか「いざというときに助けあえる(これまた、金銭的な面も多分に含まれるだろう)」などを掲げている方は多い。特に「結婚したがらない男性」を直接的、あるいはやんわりと攻撃しているような記事のライターさんにはその傾向が強いようにお見受けする。

 

 しかしこの自殺率データを見ていると、実はそうしたメリットを享受できるのは女性であって、男性にとってはそれほどのメリットは無いのではないだろうか。それどころか、むしろ精神的な重荷になっているだけではないかと思えてしまうのだ。

 

 あいつも・・・結婚さえしなければもっと長生きできたのに・・・

 

こういうことになるのかもしれない。